チベット人の高所適応の遺伝的な基盤

サイエンスの記事 Genetic Evidence for High-Altitude Adaptation in Tibet
チベット人は高い山地に暮らしているので低酸素状態に適応している。チベット人に近い日本人や中国人は高所に行くとがんばって酸素を運ぼうとしてヘモグロビン濃度が上がるのだが、これは逆効果。チベット人は逆に濃度が下がり、呼吸量が上がり、血流量があがるという現象がみられる。このヘモグロビン濃度の低下に関わる遺伝子を候補遺伝子アプローチおよびSNPタイピングによって特定した。

GOからHIFと呼ばれる経路に関わる240個の候補遺伝子を検索。チベット人に特有のはプロタイプを持つ遺伝子をピックアップ。形質との相関。Fstなど。周辺200kbにおける中立SNPをもちいてpositive selectionの検出

結局、2つ確実なのが見つかった。EGLN1 と PPARA という遺伝子。両方ともHIFに関わる。EGLN1はHIFを制御する。
HIFはErythropoietinの発現を制御し、Erythropoietinは赤血球の産生を制御する。

ネアンデルタール続報

まだ論文を読んでいないのだが。ネアンデルタール人と現代人との交雑の証拠が見つかったそうです。やっぱり、ね。とか。交雑派万歳。よかったねテンプレトンさん。
でもどこまではっきりとした証拠なのか、気が向いたら読んでみようとおもう。
もし交雑してたとして、ミトコンドリアで排他的なのだから、すくなくともハイブリッド雌は不妊だったか、あるいは選択的に殺されていたか、、(恐ろし。)。
単にドリフトや選択的に不利なので消えていった可能性もないことはないが、集団が急激に拡大していたはずなのでその可能性は低いのではとおもう。
現代人の凶暴な一面とその場で繰り広げられたであろうネアンデルタール人の苦難に思いを馳せ、週の初めからどんよりしちゃいました。
でもそうした性質も、自然淘汰という意味では有利な形質なのかなと思ったりもします。
はじめから罪を背負って生まれてくるとは、かの聖人もよく言ったものだ。

すごすぎる!カラス

サイエンスの記事。元ネタはBiology letter。
http://news.sciencemag.org/sciencenow/2010/04/clever-crows-complex-cognition.html?etoc

ニューカレドニアカラスはとっても賢い。
バラバラに覚えた各種の行動を正しい順序で組み合わせて、目的(えさ食べる)を達成するという。
さらには途中で必要な行動を教えなくても、自分で編み出すというからすごい。
でも、一連の行動はだいたい同じ(棒でかきだす)だから、どうなんだろうという気はする。
それにしたってすごい。

目的を達成するために考えて行動しているのか、ただ、機械的に組み合わせてやってみたらできちゃったのか。
文中で指摘されているように、既にこのカラスたちがこの(あるいは似た)行動を学習していたという可能性もある。
ひなの頃からかっていたんではないのかな?

まえまえからカラスは頭いいとおもってたけど・・・おどろき。
そして大学院生がこれをやったというから、さらにおどろき。

ネコの毛色パターンについて:論文

別件でちょこっと論文検索をしたら、気になったので備忘録に。

Defining and mapping mammalian coat pattern genes: multiple genomic
regions implicated in domestic cat stripes and spots
Eduardo Eizirik et al. 2010

ネコの模様のパターンを決める遺伝的要素をQTLで調べた。A アビシニアンの様なアグチ型・B 斑点型・C アメショーのような縞型・D より茶色く大きな縞(うずまき型)に着目。
これらには少なくとも3つの異なる遺伝子領域が絡んでおり、それぞれ1)Tabby アメショー型とうずまき型を決めるアリルがある, 2) 模様をコントロールするいくつかの要素、3)Ticked アビシニアン型を半優性で発現するが、Tabbyの発現にもエピスタティックに絡んでいる遺伝子座、である。
今のところ遺伝子は確定していないが、Tabbyの候補としてはピグメントを運ぶAP3複合体の構成タンパクをコードするAP3S1やAP3B1、さらに犬で毛色パターンを決めているTYRP1があがった。(TYRP1は家ネコで別の場所にマップされている。ブラウンやシナモン系の色を決めており、パターンではないから可能性は低いかもしれない)

DNA replication Fidelity: Kunkel 2000

分子進化を考える上でDNApolymeraseのFidelityや構造は重要だろう。特に今はインデルの起きる仕組みについて知りたい。
・エラーの起きる率は酵素のクラスによってちがう。(校正のためのエキソヌクレアーゼ活性に応じて)(Family A, B, C : 10^-6~8)
・水を排除し、テンプレートと水素結合した状態の分子の形で判断して正確にくっつける。形の方が水素結合より重要。
・ピリミジンーピリミジンの変異(Ts)は水分子が隙間を埋めることで結合してしまう
・スリップによるIndel(シングルベース以外)はポリメラーゼの移動の最中や、ポリメラーゼがプライマーとくっついたりはなれたりする過程でおきるだろう。
・一塩基が間違って加えられると、その先をのばしにくくなる。しかたがないのでテンプレートの方を折り畳んで合う塩基をさがしてもう一度くっつける(Primer relocating)というのが行われる。その結果、デリーションが起きる。
・スリップはポリメラーゼのくっつきー合成ー分離サイクル(何b単位でこのサイクルが繰り返されるかはポリメラーゼによって違う。)に起こる。
・シングルベースのdelにはホットスポットがある。(5'-Py-T-G-3' など、ポリメラーゼによって違う)

恐竜と鳥の間

Scienceの記事
恐竜と鳥類はジュラ紀の後期、約1億5千万年前に分かれたとされている。これまで、羽の生えた恐竜と最古の“鳥”とされるArcheopteryxとの間には6千3百万年という開きがあったが、最近新たに中国の新疆で見つかった鳥っぽい化石はこの間を埋めることになりそう。
これまで羽毛の生えた恐竜で一番古いものは、一昔前に話題になっていたOrnitholestesだったが、それは鳥の祖先というよりは側系統であるらしい。鳥につながる系統であるとされるArcheopteryxの化石はそれよりもかなり新しくなってからしか見つかっていなかったが、今回発見された化石はこのArcheopteryxの祖先的なものらしい。これは鳥類がジュラ紀の後期に恐竜の一系統から進化していったという説を強く裏付ける。

さらに、同記事に1億2千万年前の鳥っぽい化石種Sinosauropteryxの羽毛にMelanosomeがあり、さらにEumelaninとPheomelaninがあったことが発見されたと書いてあった。そんなものが化石に残るのかと少しびっくり。写真はそれに基づいて色づけされたそう。恐竜にはなかったのだろうか。そういえば爬虫類の色素はどういうものなんだろうか。
追記
爬虫類にもEumelaninとPheomelaninによる黒白の体色発現があるらしい。でも、それ以外にも爬虫類の体色にはみどりとか黄色とか、オレンジとかありそう。これらは外部からの摂取なのか。合成経路があるのか。2010.02.03 節分

同義置換速度は一定と仮定しなければ、非同義置換速度は系統間で比べられないのか?

どちらが正しいのだろう?

1、中立説によれば同義置換速度は選択の影響を受けないのでどんな系統間で同じである。そう仮定して非同義痴漢速度を比べれば、どの系統で非同義置換速度が早いとか遅いとかを判断できる。ところが、実際には2配列間の分岐年代を知ることは難しく、同義・非同義置換速度を量ることは難しいので、dN/dSを計算する。これが系統間で異なれば、選択の影響ということになる。
2、実際は突然変異はほとんどが弱有害であるので、集団サイズの影響を受ける。つまり集団サイズが小さいと置換率が上がる、したがって系統間(たいてい集団サイズは異なる)での同義置換速度は異なる。しかし同義置換速度に対する非同義置換速度の比(dN/dS)を取れば、非同義置換が同義置換に比べて特別高いとか低いとかがいえるので、これを系統間で比べれば、同義置換速度がどう変わろうと、どの系統で非同義置換速度が早いかを判断できる。

PAMLなどのソフトは2のようなスタンスなのではと思う。けれど1も中立説原理主義の人のコンセプトとしては間違っていないような気がする。2配列間のdNdSを求める直接法としては1のスタンスなのだろうか?頭のこんがらがる問題。